『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 |
ケン・リュウによる中国SFアンソロジー。SFも他の文学ジャンル同様、その時代、その国の人々の考えを映し出す鏡です。表題作である郝 景芳(ハオ・ジンファン)の「折りたたみ北京」では、折りたたまれ続ける都市に文字通り分断され届かぬ人々の思いが丁寧に描写されます。
陳楸帆(チェン・チウファン)の3篇は、科学技術に人間性が浸食されていくような状況において、なお根源的な欲望、喜怒哀楽を描いた作品。「鼠年」における青年兵の葛藤、それをあざ笑うテクノロジー企業の暴虐な意思。時間の流れ、その感じ方さえ経済に利用される格差社会を描いた「麗江の魚」。テクノロジーを越えた愛憎を切り取る「沙嘴の花」。どれも絶品。
夏笳(シア・ジア)の3篇は、少しやさしくすれば子ども向けSF童話になりそうで、その実、内在しているものはハード。「お化けには学校も試験も何にもない」ことの哀しみを切り取る「百鬼夜行街」、テクノロジーを利用した世界と祖父、祖父と孫の斬新なふれあい、「童童(トントン)の夏」。3つ目の「竜馬夜行」で蝙蝠が語るセリフがいいです。
「好きにしていいのよ。人がいなくなっても世界は続く。ほら、今夜の月はこんなにきれい。歌いたければ歌えばいいし、歌いたくなければ寝ていればいい。歌えば世界が聞く。黙すれば万物の歌が聞こえる」
劉慈欣(リウ・ツーシン)の「神様の介護係」には恐れ入った。高齢社会の問題を揶揄した短編かな?と思ったら、終盤に神様が明かす宇宙の絶望的な秘密と、これ以上なくロマンチックな宇宙の最期。完璧です。