『ファミリー・ライフ 』アキール・シャルマ著 小野正嗣訳 |
インド・デリー生まれニューヨーク在住の作家アキール・シャルマ(Sharma,Akhil)の自伝的長編『Family Life』を読みました。
アメリカ社会においてインド出身であること、脳挫傷で寝たきりになった兄を家族で介護しなければならないこと、両親の確執の果てに父がアルコール依存症になってしまったこと、それらを通して少年の視点で、人と人が適切に分かり合うことがいかに難しく稀有なことかが描かれている、そう思いました。
医療福祉に携わる人、身近なひとの介護やアルコールの問題を経験したひとだけでなく万人にお勧めしたいです。家族の普遍的な問題、地域社会のことがら、日常的な差別、いじめ、思春期の葛藤、さまざまなことに通じると思います。
男がひとり、妻と別れた話をした。息子にバースデーカードを送りたいときには、子ども達との接触が許されていないので、保護司の前で書かなければならないという。こうした話のどこが飲酒と関係があるのか僕には理解できなかった。こんな振る舞いをしているのに、それでも白人は僕らより偉いのだと思うとだんだん腹が立ってきた。(P181)
「ここにはいい医者がいる」と父は言った。「看護師もとてもいい。なに、ありふれた問題なんだよ、この飲酒ってやつはさ」、父はほほえみ、自信ありげに喋っていた。その自身ゆえに、父が妄想にとらわれているように見えた。(中略)父が喋れば喋るほど、父を失っていく気がした。(P174)
「命より大切な兄貴」と僕は言ってみた。(中略)メロドラマ的なことを口にすれば、子どもじみた愚かしいことを言っているように聞こえるし、そうすれば自分が元気であることの幸運を責められずに済むだろう。(P120)